セカイにひとり

第一章「もふもふ喫茶の夢」

(World Line Kigumi)

 

「ココアさん、起きてください。ココアさん」

「むにゃむにゃ、あとにじゅっぷん……ぐー」

「今日はお仕事の日ですよ」

「ぐー」

「起きないとおやつ抜きですよ……お姉ちゃん」

「はっ! 今、お姉ちゃんって呼んだ!?」

「呼んでません。早く支度してください」

ココアさんがラビットハウスに来て2年目、相変わらずのねぼすけさんです。事あるごとに『実家はパン屋さんだから早起きはお手のものだよ! チノちゃんを起こしてあげる!』と言っていますが、いまだ果たされていません。もし果たされたなら、その時は呼んであげなくもないです。たぶん。

ココアさんが半分寝たまま着替えに行った頃、リゼさんが出勤してきました。

「おはようチノ。ココアは今日も寝坊か」

「はい。今着替えに行っています」

「相変わらずだな」

リゼさんは笑いながら、お店の制服に着替えるためにバックヤードに入っていきました。

 

「さあ、今日もいちにちがんばるよ!」

「はい」

「ああ。……で、今日はお客さんは来るんだろうか」

私の悩み、それはラビットハウスが喫茶店として営業している昼間に来るお客さんが少ないことです。父いわく、夜のバータイムは結構盛況なようですが。喫茶店を盛り上げるにはどうしたらいいでしょうか。

「お客さんにティッピーをもふもふしてもらおうよ!」

『疲れるから嫌じゃ』

「チノちゃんの腹話術で即座に否定された!」

「だいたいティッピーは1匹だけです。お客さんに順番にもふもふさせていたら大変です」

「だな。せめてこの毛玉があと2匹はほしいところだ」

「わかった! じゃあ公園でつかまえてくる!」

私やリゼさんが止める間もなく、ココアさんは駆け出して行き……そして扉に激突しまし た。

「ぐええ……」

「大丈夫ですかココアさん」

「大丈夫かココア?」

「あら、何かにぶつかったような音がしたのだけれど」

「ってココア、何があったの!?」

ちょうどやって来たのは千夜さんとシャロさんでした。

 

 

「そう、で、うさぎを捕まえてこようとしたというわけね」

シャロさんがココアさんの話を聞きながらうなずいています。

「アンゴラウサギが3羽になると、どれがティッピーかわからなくなりそうね、ココアちゃん」

「はっ! そうだった! みんなもこもこもふもふだとわかんなくなりそう!」

「そもそも公園のうさぎをほいほい捕まえてきていいかという問題もあるわ」

「公園で管理しているうさぎと、野良うさぎが一緒になって駆け回っているという話もあ りますし」

「公園管理のうさぎには何か目印があるんじゃなかったっけか」

「いろいろ確認が必要そうですね」

私やお父さんにとっては、ティッピーはおじいちゃんなので、あと2匹やってきても見分けはつけられるのですが。

「うちのあんこと、シャロちゃんちのワイルドギースをしばらくラビットハウスに連れてきてもふもふキャンペーンを開くのはどうかしら」

『嫌じゃ』

「またダンディーな声で否定された!」

「あんこがティッピーを追いかけまわすから、お客さんにもふもふさせるどころではないと思いますよ」

もふもふで盛り上げる作戦、前途多難みたいです。それ以外の作戦を考え始めたところ、新たなお客さんがやってきました。

「こんにちは~、今日もお世話になります~」

「やっほーチノ!」

「こんにちは~チノちゃん」

青山さんと、マヤさんメグさんでした。

 

「ラビットハウスを盛り上げる作戦?」

「そうなんだよ! せっかくいいお店なのに、なかなかお客さんが来てくれないからチノちゃんが悲しんでるんだよ! 何したらいいかな~?」

「こういう時は、前お客さんでいっぱいになった時を思い出すといいんだって~」

「やっぱあれかな、クリスマス! 私とメグも手伝いに入ったくらい忙しかったでしょ」

「毎日キャンペーンやればお客さんいっぱい来るかもしれないわね」

「じゃあ毎日パンを焼こう♪ そうしよう♪」

『うちは喫茶店じゃ……』

「さすがに毎日パンのキャンペーンをしていたらパン屋さんになっちゃいます」

でも、月に1回、2回くらいでしたら、ココアさん特製のパンとのコラボレーションもいいかもしれません。

 

さて、夕方になりましたので、喫茶店ラビットハウスは閉店です。夜はいつもの通りバータイムになります。

「チノちゃん、今日もいちにちお疲れ様~!」

「お疲れ様です、ココアさん。途中ひなたぼっこしていたのは知っていますよ」

「ぎくっ」

「まあ、悲しいことにココアがひなたぼっこしてても回るくらい、今日は常連さんしか来なかったんだけどな」

「いいんです。常連のお客様に大切にされるラビットハウスを目指すんです」

「ラビットハウスのあったかい感じを好きになってくれるお客さんがいっぱい来てくれる といいね♪」

「そうですね……」

「ああ」

 

夜、ココアさんと一緒に夕ご飯を食べて、お風呂にしようとしたとき、珍しくココアさんが一緒に入ろうと誘ってきました。ココア風呂パート88だそうです。

「チノちゃん、今日もいちにち楽しかったね」

「はい、楽しかったです」

「明日はお仕事お休みだし、どこかおでかけしない?」

「明日はボトルシップを組み立て始める日です」

「え~おでかけしようよ~」

「……しかたないですね」

「ほんと!? やったー!」

 

「それじゃあおやすみなさい! チノちゃん!」

「おやすみなさい、ココアさん」

明日……ちょっと楽しみになりました。また明日、よい日になることを願って。